冷コーのオッちゃん

雑記

先週の東京行の新幹線でのこと。

私はいつも2人席の通路側に席をとる。自由に席を立てるから。

隣の窓際席が空いてたらゆっくりできて、ラッキーだし。

その便では新大阪から、オッちゃんが乗ってきた。

「いやあ、ゴメンやで。わし、いつも3人席の窓際A席とるんやけど、窓口の兄ちゃんが間違えてE席とってしもたんや~」と切符を見せられた。

私:席を立ち、「どうぞ」  

オッちゃん:「わし東京までやけど、ゴメンやで。お姉さんは?」

私:「東京です。」

オッちゃん:「わし、その後乗り継いで高崎までいきますねん。暑っついのになあ。」

私:「そうなんですか。」

再度、この席を予約した経緯を聞く。

私:「そうなんですね。」

最初から本を読んでる私にオッちゃんは容赦ない。

スマホを見ながら

「わ、大谷、また打ちましたで! すごいですなあ。わ、でもエンゼルス負けてるわ~。ホラっ」

とスマホを見せられる。

私:「大谷はすごいですね。」

オッちゃん:「でっしゃろ~。大谷と藤井聡太は次元がちがいまっしゃろ~」

私:「そうですね。」

その後もスマホの台風ニュースをチェックし、一通り見せられる。

私:「へぇ~」

オッちゃんがイヤホンをしてYouTubeを見だしたので、これで解放された!と感じた矢先、

「わし、こんな懐メロ演歌ばっかり聞いてますのや」と画面を見せられる。

私:「そうですか」

「お姉さんはなんの本読んではるの?」

私:本(衛藤信之さんの 心時代の夜明け)の表紙を見せる。「こんな本です」

オッちゃん:「わし、そういう系の本は眠たなりますねん。歴史小説は好きですけど。あ、でも、あの、頭の研究してはる女の人いてますやん。テレビにも出てる、あの人の本は面白そうでしたわ。」

私:「(頭じゃなくて脳科学者の)中野信子さんですかね」

オッちゃん:「そうそう、よう知ってはりますな~」

その後、オッちゃんは車内販売のワゴンを止めて、コーヒーを2つ注文した。

「わし、ホット。お姉さんは?冷コーかな?ご馳走しますわ。」

困惑するワゴンサービスのお姉さんに、「私はアイスで」と注文し、有難く頂戴することにした。

それにしても、久々に聞いた「冷コー」に噴き出してしまった。

大阪の中年以降の人にしか通用しない喫茶店のオーダー。

「冷コー」とは「冷たいコーヒー」つまりアイスコーヒーのこと。

オッちゃんにコーヒーのお礼を言ったあと、

「冷コーなんて言葉、何十年かぶりに聞きました」と笑ながら言うと、オッちゃんはすごくうれしそうに、「そうでっか、今の人はわからんのかな~」

いや、大阪の、昔の人しかわからんて!

岐阜羽島を通過したころ、「信長の金ぴか像知ってる?コレコレ。

信長は金ぴかが好きやってんなあ。安土城も派手でしたんやろ。ほんで殺されてしもたんやなあ。あの明智に。大河で長谷川ナントかがやってましたな。明智はあんな男前ちゃいまっせ。」

私:「ですよね~」

「ほんで、これはな・・・」

私:「伊達政宗の像ですね」

「わあ、よう知ってはるなあ。でも、こんなんもあるで。これは伊達政宗の胸像やで」

私:「それは見たこと無かったです」

オッちゃんはさらに拍車がかかって、昔の旅行の写真を見せながら、説明してくれる。

コーヒーをご馳走になっているので、邪険にはできないし、学習した傾聴のスキルをこんなところで遺憾なく発揮。

オッちゃんは70歳で、大手鉄鋼メーカーを定年退職し、子会社で数年勤務ののち退職。最近、ビル管理会社の清掃員としてシニアバイトしてるそうだ。

清掃仕事先のビルの写真も見せてもらった。

「ここで、週4日、午前中だけ仕事してますのや。体がエラなったら辞めよと思てますねんけど、会社がいつまでもおってくれ、ていうてます。人手が足りんのやなあ。わしも仕事は嫌とちゃいますしな。」

「そうそう、この上のマンションに、吉本の芸人でナントかて人が住んでますねん。エレベーターでたまに会いますねん・・・ほれ、あの人!」

(手がかりが無さ過ぎてわからず・・・)

奥さんも当時としては珍しく、子育てしながら定年まで勤めあげたらしい。

「わしは高卒やけど、嫁はんは女子大でてますんや」

「孫もおりますがな」

昔の良き時代のサラリーマンだったんだろうな。

多分、悠々自適で色んなところに旅行に行って楽しんでいるけど、社会とのつながりも欲しくて仕事している、って感じだった。

結局私は東京までの2時間半、「へえ~」「そうなんですか」「なるほど」を軸に

オッちゃんの話しを聞き続けた。

この状況、もうコントですやん!と心の中で爆笑してた。本はちっとも読めなかったけど、ちょっと面白かった。

新幹線を降りる時、「おとうさん、いい人生ですね。これからもお元気で、楽しんでくださいね」と言って別れた。これは私の心からの言葉だった。

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